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2017.09.08

シリーズ全体で表現される“影に挿す一筋の光”

 

職人泣かせの技法を散りばめたルチェ エ オンブラ

 

ルチェ エ オンブラはyuhakuの数あるラインナップの中でも常に高い人気を集めるシリーズだ。イタリア語で光と影を意味するシリーズ名が示すとおり、手染めのグラデーションに黒を合わせることで“影に挿す光”を表現した意欲的なアイテムが揃う。財布やカードケースなどに加え、バッグやシューズ、ベルトなどまでリリースされているため、トータル的なコーディネートが楽しめるのも大きな特徴と言えるだろう。今回から数回に分けてデザイナー仲垣氏のインタビューを交えながらルチェ エ オンブラ シリーズの魅力に迫っていきたい。今回のシリーズもyuhaku独自の手染めに加え、使いやすさに対するアプローチやパーツの設計・縫製など、yuhakuの持つ強い拘りが垣間見られるはずだ。

 

財布や革小物では建物がつくる強い影をイメージ

 

 

まずはシリーズ中でも随一の人気を誇る長財布から見ていこう。デザイナーの仲垣氏曰く「財布やカードケースなどを作る時にイメージしたのは建物に強い光が当たってできた深い影。墨染め部分の幅や位置関係、グラデーションの入り方とのバランスなどに気を配り、このルックスへと辿り着きました」とのこと。グラデーションの発色の良さと黒の深さ。1枚の革の上にこのコントラストが生み出すミステリアスな雰囲気こそルチェ エ オンブラの真骨頂だ。影となる部分の墨染めも当然すべて手作業。手染めで繊細なグラデーションをつくり上げた後、マスキングをしながら墨染めで影の部分を染め上げ、さらに磨きの工程を経て完成させていく。yuhakuならではの丁寧な仕事がこの財布にも生きている。

 

 

 

 

 

次はルチェ エ オンブラの手染め工程を追ってみよう。まずグラデーションに手染めされた素材にけがき線を入れ、墨染めする位置を決める。その後、けがき線に沿ってマスキングテープを貼る。「じつはマスキングテープにもうちならではの工夫がほどこされているんです。マスキングテープの粘着力で手染めした色が剥がれないように、テープを1mmだけ残して紙を貼るようにしています。この幅を決めるのにも試行錯誤があったんですよ」と仲垣氏。マスキングテープを貼り、手染めで墨黒を入れていく。ベースとなる革の染まり方などを見ながら数回に分けて染めるため、この工程も繊細な作業となる。染め上がったらマスキングテープを剥がし、ワックスをつけてバフを当てていく。手をかけるほどに光沢を増していきガラス面のような輝きが生まれる。

 

 

ルチェ エ オンブラ シリーズには財布だけでも束入れと2つ折りタイプの札入れ、マネークリップ、そしてL字ファスナーの束入れの4種類が用意されている。その中で仲垣氏が愛用するのがL字ファスナーの束入れだ。「この長財布は左手に持った時の使いやすさを考え抜いて設計しました。ファスナーを開ければお札はもちろん、カードや小銭まですべてスムーズに取り出せるようになっています。自分はお金を払う時にわざわざ財布の向きを変えたり、持ち替えたりするのが嫌なんですよ。とにかく会計をスマートに終わらせたいという一心で作ったので、こういう財布ができました」。取り出しやすいカードスリットや収納力の高い札入れ部分など注目点は数々あるが、筆者が特に感心したのは小銭入れの設計。手前側にのみマチが付いているため、財布を立てて小銭入れのファスナーを開くと自然に手前側(自分側)に小銭が集まるようになっているのだ。是非一度手にとって、その使いやすさを体験していただきたい商品だ。

 

 

 

カードスリットには6枚+隠しスリットに2枚収納可能。「カードスリットは敢えて深めにして、カードのデザインが見えすぎないようにしました。お店でもらう会員カードやポイントカードなどは、どうしてもデザインに統一性がないので、浅いスリットだと財布を開いたときに雑然としたイメージになってしまうんです」と仲垣氏。メインの札入れの他にも隠しポケットやエクストラスリットがあるため領収書なども綺麗に整理できるのも嬉しい。

 

 

 

ディテールも見るべきところが多い。これはyuhakuのプロダクト全般に言えることだが、付属のファスナーなどのクオリティにもこだわりを発揮している。L字ファスナー束入れに使われたのはYKKの最上級ファスナー、エクセラ。トップは直線的なデザインが与えられたオリジナルだ。ブラックニッケルメッキを施してからさらにヘアライン仕上げ(単一方向に髪の毛ほどの細かい傷をつける加工)にすることで、独特の上質さを生み出している。さらにもうひとつ言うと、手染めのグラデーションと墨染め部分の境界線に押された刻印も職人泣かせの代物だ。どうしても個体差が出てしまう天然皮革だけに、ライン上にキッチリとブランドロゴを押すことは案外難しい。ともするとロスが出てしまう可能性もあるが、それでもこのデザインを優先させているあたりにyuhakuらしい妥協の無さが見えてくる。

 

 

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2017.06.09

「yuhaku」のルーツでもある手染めの革靴

 

革靴をキャンバスに見立て絵画のように色を重ねる

 

今でこそ革小物のイメージが強い「yuhaku」だがブランドのルーツは革靴にある。「yuhaku」を牽引する仲垣氏は無類の靴好きで、一時は100足以上もコレクションしていたほど。イタリア人の靴職人の教えを請い、自分でもオールハンドで1足靴がつくれるほどの技術を習得しているとか。それだけに「yuhaku」にとって革靴は特別な存在なのだ。今回は実際にヌメ革で作った靴に色を入れ、染料を重ねることで深みを増していく「yuhaku」の手染めの醍醐味をレポートしたい。

 

 

ベースとなる革靴はイタリアのカーフを使って素上げしてもらったもの。モデルによってグッドイヤーウェルトとマッケイの2タイプの製靴方法がとられるが、今回染めるブローグシューズはグッドイヤーウェルトでつくられたものだ。染料はブルーを基本にグレー、茶色、黄色など数種類を使って手染めしていく。

 

 

 

最初は靴全体をブルー(空色)に染めていく。この時に完全に乾いてしまう前にバフを掛けるのがポイント。染料が完全に乾いてから磨いても思うような光沢が出ず、革も堅くなってしまう。それ故に1足ずつ染めていく必要があり、大量生産はできないのだ。とにかく手早く的確にタイミングを見ながらバフを掛け、手染めを繰り返していく。まさに革との対話を繰り返していくような作業で、すべて職人の感覚によるところが大きい。これも長い経験の中で試行錯誤しながら見つけ出してきた「yuhaku」だけの技術だ。

 

 

ヌメ革の時には分かりにくかった肌の細かな状態も下地の空色を塗ると見つけやすくなる。この段階でスリッカーと呼ばれる工具で凹みキズなどをしっかりとならして綺麗にしておく。こうしておくことで仕上がりに差が出てくるのだ。

 

 

 

 

下地の段階から完成を予想してグラデーションをつけていく。タンの部分も細めのハケを使って手染めし、丹念にバフを掛けていく。

 

 

 

下地の手染めが終わると、次は靴の外周を黒い色に手染めしていく工程だ。ハケだけではなく布も効果的に使い、下地との境界線をボカしていく。

 

 

通常、革靴をグラデーションにする場合はトゥとヒールをダークトーンにするのがセオリー。だが「yuhaku」では逆に靴の中央部分に暗い色を持ってくる。

 

 

革の切り換えの部分やコバにもハケを使って手染めしていく。

 

 

 

左がハケを使う前のもので右が細部まで手染めしたもの。ちょっとしたことだが見た目がかなり変わってくることが分かるはずだ。

 

 

 

次に使うのは黄色の染料。靴の上で下地の青と混ぜることでグリーンのような色へと変化していくため、それほど黄色が強調されることはない。

 

 

黄色をはじめとした明るい色は、靴に光が射し込むイメージで染めていくのだとか。まさしく靴をキャンバスに見立て、油絵のような感覚で色を重ねて完成へと近づけていく。アーティスティックな感性をもつ「yuhaku」の職人たちの腕の見せ所だ。

 

 

 

今回の手染めの中でも一際スピーディーさが要求されるのがブラウンの染料を使う工程。茶系の染料は他の色を打ち消してしまいやすいので、それを防ぐために素早く手染めして、バフを掛けていく。

 

 

向かって右がブラウンを手染めしてバフを掛けたもの。より深みが出たのがお分かりいただけるだろうか。

 

 

 

 

アッパー部分の仕上げに筆を使ってき履き口などのコバも仕上げていく。この時、ブラックではなくグレーの染料を使うのがポイント。黒だとコントラストがきつく出過ぎるため、敢えてグレーを使っているのだという。右が仕上げ前、左が仕上げ後になる。

 

 

 

 

革靴好きの方ならご理解いただけると思うが、良い革靴は底までしっかりと仕上げられているもの。「yuhaku」はアウトソールにも手染めで色を入れていく。中央の膨らみを中心として、ゆるやかにグラデーションがかかったこの靴底はまるでバイオリンのような風情。この立体感を演出するため、シャンクの他に形成した革を入れ、敢えて靴底の中央が盛り上がるように設計しているという。無類の靴好きである仲垣氏ならではの造型美だ。

 

 

今回手染めしたのはブルーグリーンというカラー。ベースの革の色が経年変化で黄色くなっていくため、履いているうちにさらにグリーンが強くなっていく。「yuhaku」の職人たちは染め上がりのイメージを持つだけでなく、完成してから経年変化をすることまで考慮して手染めを施していく。染料や革の特性をよく理解しているからこそできる仕事なのだ。

 

手染め靴の商品ラインナップはこちら >

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2017.05.12

芸術性を突き詰めたコードヴァン製品の手染め

 

研ぎ澄まされた職人の感覚が「yuhaku」のグラデーションを創りだす。

 

基本的にヌメ革から手染めで色を入れていくのが「yuhaku」の流儀。だがコードヴァンを使ったシリーズだけは既に製品になったものに手染めでグラデーションを加えている。これはコードヴァンの染色方法が普通の革とは異なるため。「yuhaku」では世界的なコードヴァン専門の皮革工房であるレーデルオガワと協力し染め色にこだわった独自の皮革を使用している。製品染めの場合、手染めとバフ掛けがほぼ最後の工程になるため、この段階でのミスは許されない。それだけに職人たちは独特の緊張感の中でグラデーションを描いていくことになる。

 

 

 

 

これが染めを施す前の名刺ケース。自然な艶があるレーデルオガワの水染めコードヴァンを使っているため、この段階でも既にモノとして魅力的だ。手染めの染料は、明度の異なる4種類のグレーが用意される。天然故にベースの革の発色が一つ一つ異なるため、この4種類の中から使うものを見きわめて手染めしていく。

 

 

 

染料を手染め用の布に少量とりフリーハンドでグラデーションを描いていく。まずは薄グレーを使ってぼやけている境界線部分から染め始め、外側の濃いグレーの部分へと染めを進めていく。綺麗なグラデーションになるか否かはまさに職人の感覚によるところ。また、少しでも強く圧を掛けて染めてしまうと色が入らないところができてしまうため、力加減にも細心の注意が払われる。

 

 

 

 

内側までコードヴァンを使った贅沢な仕上げなので、当然内側にも手染めでグラデーションを描いていく。外側と内側のグラデーションのポジションやぼかし具合が揃うように、調整を行いながら進めていく。コードヴァン以外の内装パーツを汚さないように気をつけなくてはいけないのも製品染めの難しさのひとつ。柔らかな白い布を敷いているのは表面に傷がつくのを防ぐための配慮だ。

 

 

ステッチの外側の細かな凹凸のある部分は綿棒を使って染めていく。通常の生地で染めていくだけではこの部分だけ染まらずにベースの色が残ってしまう。こうした細部にまで気を配っていくことが「yuhaku」ならではの完成度の高さにつながっている。

 

 

バフを掛けて磨き上げていく商品化直前の工程。少量のワックスをつけて磨くことでコードヴァンならではの光沢感を出しつつ、この素材の弱点である耐水性も高めることができる。艶が出ることで「yuhaku」の最大の特徴である手染めのグラデーションがより一層際立って見えてくる。最高峰のコードヴァンと芸術性の高い手染めが完璧に融合した瞬間だ。

 

この手間ひまかけた手染めのコードヴァンの商品はこちら >

 

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2017.03.25

臨時休業日のご連絡

 

このたび、誠に勝手ながら事務所移転の為、下記日程にて臨時休業日を頂戴いたします。
移転に伴い通常業務(出荷、電話、メール)のご対応につきましては、翌週4月3日(月)より順次ご対応をさせて頂きたく存じます。
ご不便ご迷惑をおかけいたしますが、何卒ご了承下さいますようお願い申し上げます。

臨時休業日:平成29年3月29日(水)より平成29年3月31日(金)までの3日間

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2016.12.23

長く使っていただくための正しいメンテナンス
vol.02: 引っ掻き傷編

 

毎日使っていると避けられないのが爪や金具などによる引っ掻き傷。コーティングを施していない「yuhaku」の革なら、これぐらいの傷はすぐに修復可能だ。「yuhaku」が質感を生かした革を利用する理由のひとつが、ここにある。写真で白く見える傷の部分は、革が剥がれてしまっているわけではなく、表面が荒れてギザギザになっている状態。これを平らに戻し、クリームで油分を補っていくことで傷が消えてしまうというわけだ。

 

 

まず始めにクリームを着けずに乾いた柔らかい布(着古したTシャツなどでOK)で傷の部分を磨き、ある程度傷をフラットに戻しておく。この工程を経ずにクリームを使うと、傷の部分にだけクリームが入ってしまい、かえって傷を目立たせてしまうことになる。

 

 

 

傷を消す時のコツは爪を上手に使って、革の表面を平らにしてあげること。写真のようにウエスの中で人差し指を鍵状に曲げ、爪の表側をつかって磨くようにすると上手に力を入れることができる。この時、人差し指に親指を押し当てるのがポイントだ。より力を加えて磨くことができる。数回磨くごとに革の状態をチェックしながら時間をかけて行うと失敗が少ない。

 

 

クリームを塗る時のポイントは量を少なめにすること。一度にたくさん着けすぎるとシミになってしまったり、染料が落ちてしまう原因になる。「yuhaku」が推奨しているコロンブスのブリオを使う場合でも、指先に少し乗る程度が適量と言えるだろう。ちょうど米粒大が目安だ。ウエスに取って、薄く、広く伸ばしていく感覚で行ってもらいたい。

 

 

適量のクリームをウエスに取り、傷の部分をゆっくりと磨いていく。ある程度の力をかける必要があるが、水ジミ同様、強く磨き過ぎると染料が落ちてしまうことがあるので、力加減には注意が必要だ。最初は優しく、次第に力をかけながら調整していくようにしたい。適度な力で磨いていくと次第に傷は消えていく。

 

 

先程の傷が嘘のように無くなったのがお分かりいただけるだろう。この状態になるまでわずか5分程。少し手をかけるだけで、見違えるように綺麗になるのが革製品の面白いところだ。大切な人に会うその時にメンテナンスをするだけで、飛躍的に製品の寿命を延ばすことができる。

 

 

右:コロンブス ブリオ
革のメンテナンス初心者でも失敗が少ないオススメのクリームがこちら。革への浸透力はそれほど強くないが、保革成分のホホバオイルと天然ワックスのビーズワックスがしっかり含まれているため光沢が出やすく、扱いやすい。

 

左:レザーマスター レザープロテクションクリーム
イタリアから上陸したクリームで、浸透力が強く4日間ほどかけて革の内部まで浸透。革に栄養分を与え、耐水性、耐油性も高め内側から革を守ってくれる。浸透力が高い反面、使い方を誤ると染料を浮き立たせてしまうため、色落ちが起きる危険性もある。そのため、初心者の方はコロンブス ブリオでメンテナンスに慣れ、次のレベルでレザープロテクションクリームを使うのがオススメだ。

 

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