YUHAKUを代表するアイテムといえばベラトゥーラシリーズ。何色もの染料を重ねることで美しいグラデーションを表現しているのが特徴だ。その染色技法はこれまでにもお伝えしてきた通りだが、今回は使い勝手や機能のための緻密な設計にも目を向けてみたい。
一般的なものづくりのプロセスとして、既存の商品を解体して模範するのはよくあること。しかしYUHAKUではそれを良しとせず、独学による試行錯誤の末に綿密に設計している。現場の感覚で細部を作り込んでいくのが流儀なのだ。ここから先は、実際に財布を解体、比較しながら、目に見えない部分の小さなこだわりを紐解いていこう。
財布を選ぶ際に多くの人が目を光らせるのがカードスリットだろう。取り出しやすさはどうか、重なったときの厚みはどうか、全てのカードが収納できるのか。YUHAKUの現場感覚の作り込みをもっとも端的に表しているのが、実はこのカードスリットなのだ。
上図写真はベラトゥーラシリーズの長財布の、カードスリット部分を解体した様子。ひとつひとつのスリットはT字型のパーツを重ねることで構成されているが、実はこの小さなパーツこそ、仕上がったときの全体的な厚みを最小限にし、さらにカードを出し入れする際の滑りを良くする役割を担う重要な部分。「この部分は財布を設計する上で特に試行錯誤を重ねたところ。革は重なるほど厚くなりますが、機能的な恩恵はない。削ってスッキリさせたほうが、コバを薄く美しくみせることができるんです」と仲垣氏は語る。
またオールレザーにこだわるYUHAKUだが、この部分には意図して布を使っている。グロクラン生地(※①)を縦に使うことで、カードの滑りが格段にアップし、引っかかりのないスムーズな出し入れが可能になるからだ。
みずからが良いと確信するものを作り、新たな価値を創造し続けるYUHAKUならではのこだわりが、カードスリットひとつをとっても垣間見える。
■長財布を比較
■二つ折り財布を比較
ここで、ごく一般的な作りの財布と比較してみよう。全ての財布がこうではないことは予め断っておく必要があるが、一般的な財布というのは、概して目に見える部分にしか革を使っていないことが多い。原価的な側面だけでなく、そのほうが簡単に薄くて軽い財布を作ることができるからだ。
しかし、仲垣氏は可能な限り革を使うことにこだわる。「ほとんど独学で財布を作ってきたので、良い財布とは、当然そういう風に作られているものなのだろうと思っていました。百貨店などに見に行く時間を割くくらいなら、自分で考えて作りたかったんです」。あとになってから見る機会があって、同価格帯のものでも表にしか革を使っていないことに、逆に驚かされたのだという。
それぞれの財布に使われている革の量を比較してみれば、その差は一目瞭然である。
YUHAKUの財布は、革の裏面を見せないのも特徴。いわゆるオールレザーの財布では、内側を見ると床面(革の裏面のこと ※②)がむき出しになっているものが多く見られる。しかしそれではエレガントではないとの理由から、極薄く漉いた革全面を貼り合わせるベタ貼りと呼ばれる技法を採用、どの面も美しい光沢のある表情を見せている。
内装に使う革は、0.5~0.9ミリを中心に、最も薄いヘリの部分では0.05ミリ。これを部分に応じて使い分けている。(因みに一般的なコピー用紙の厚みが0.09ミリだというから、その薄さに驚きだ。)これにより仕上がりの美しさ、薄さは言わずもがな、革全面を貼り合わせることによって、革の両面からテンションが掛かり、しなやかなハリと強度が生み出されるのだ。また芯材を入れない仕立てだからこそ、愛用するほどに革が綺麗になじむのも魅力。ちなみに革はその性質上、浮きやシワが出るため、ベタ貼りは高度な職人技を要求される技術である。
ただし、芯材を使っている部分もある。それは、高い強度を要求される部分(※③)。テンションの掛かる部分なので、革だけだとどうしても形状が変化してしまう。YUHAKUでは革の質感を損ねないよう様々な芯材を試した結果、紙と化繊をミックスした厚みの違う2種類の芯材に辿り着いた。選び抜いた芯材を入れることで型崩れしにくく、かつスムーズな開閉を実現している。
こうした作り込みの数々は、ひとつの財布をとってみても枚挙にいとまがない。それこそが「ここまでやっている日本のブランドは他にない」と言わしめるYUHAKUの真骨頂。長く使い込むほどに、そのことを納得させられるはずだ。
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