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2018.02.02

YUHAKUの財布を徹底解剖
~オールレザーへのこだわり~

YUHAKUの長財布を解体した様子

 

YUHAKUの二つ折り財布を解体した様子

 

他ブランドに感化されない、独自のものづくり

 

YUHAKUを代表するアイテムといえばベラトゥーラシリーズ。何色もの染料を重ねることで美しいグラデーションを表現しているのが特徴だ。その染色技法はこれまでにもお伝えしてきた通りだが、今回は使い勝手や機能のための緻密な設計にも目を向けてみたい。

 

一般的なものづくりのプロセスとして、既存の商品を解体して模範するのはよくあること。しかしYUHAKUではそれを良しとせず、独学による試行錯誤の末に綿密に設計している。現場の感覚で細部を作り込んでいくのが流儀なのだ。ここから先は、実際に財布を解体、比較しながら、目に見えない部分の小さなこだわりを紐解いていこう。

 

徹底的にこだわり抜いた、カードスリット

 

カードスリットを解体した様子

 

カードスリットを構成するT字型のパーツ

 

薄く美しく仕上がったカードスリット

 

財布を選ぶ際に多くの人が目を光らせるのがカードスリットだろう。取り出しやすさはどうか、重なったときの厚みはどうか、全てのカードが収納できるのか。YUHAKUの現場感覚の作り込みをもっとも端的に表しているのが、実はこのカードスリットなのだ。
上図写真はベラトゥーラシリーズの長財布の、カードスリット部分を解体した様子。ひとつひとつのスリットはT字型のパーツを重ねることで構成されているが、実はこの小さなパーツこそ、仕上がったときの全体的な厚みを最小限にし、さらにカードを出し入れする際の滑りを良くする役割を担う重要な部分。「この部分は財布を設計する上で特に試行錯誤を重ねたところ。革は重なるほど厚くなりますが、機能的な恩恵はない。削ってスッキリさせたほうが、コバを薄く美しくみせることができるんです」と仲垣氏は語る。
またオールレザーにこだわるYUHAKUだが、この部分には意図して布を使っている。グロクラン生地(※①)を縦に使うことで、カードの滑りが格段にアップし、引っかかりのないスムーズな出し入れが可能になるからだ。
みずからが良いと確信するものを作り、新たな価値を創造し続けるYUHAKUならではのこだわりが、カードスリットひとつをとっても垣間見える。

 

※①グログラン生地:密に織られた横畝(ヨコウネ)の織物のこと。高密度の細い経糸(タテイト)が太い緯糸(ヨコイト)を完全に覆っているのが特徴。出展元:『ファッション辞典』(文化出版局)

 

圧倒的な革の使用量

 

■長財布を比較

左:YUHAKUの長財布 右:一般的な長財布

 

YUHAKUの長財布を解体した様子

 

一般的な長財布を解体した様子

 

革の使用量を比較

 

■二つ折り財布を比較

左:YUHAKUの二つ折り財布 右:一般的な二つ折り財布

 

YUHAKUの二つ折り財布を解体した様子

 

一般的な二つ折り財布を解体した様子

 

革の使用量を比較

 

ここで、ごく一般的な作りの財布と比較してみよう。全ての財布がこうではないことは予め断っておく必要があるが、一般的な財布というのは、概して目に見える部分にしか革を使っていないことが多い。原価的な側面だけでなく、そのほうが簡単に薄くて軽い財布を作ることができるからだ。

しかし、仲垣氏は可能な限り革を使うことにこだわる。「ほとんど独学で財布を作ってきたので、良い財布とは、当然そういう風に作られているものなのだろうと思っていました。百貨店などに見に行く時間を割くくらいなら、自分で考えて作りたかったんです」。あとになってから見る機会があって、同価格帯のものでも表にしか革を使っていないことに、逆に驚かされたのだという。
それぞれの財布に使われている革の量を比較してみれば、その差は一目瞭然である。

 

高度な技術に裏打ちされた、機能性と美しさ

 

革の厚みは、最も薄いヘリの部分で0.05ミリ

 

YUHAKUの財布は、革の裏面を見せないのも特徴。いわゆるオールレザーの財布では、内側を見ると床面(革の裏面のこと ※②)がむき出しになっているものが多く見られる。しかしそれではエレガントではないとの理由から、極薄く漉いた革全面を貼り合わせるベタ貼りと呼ばれる技法を採用、どの面も美しい光沢のある表情を見せている。
内装に使う革は、0.5~0.9ミリを中心に、最も薄いヘリの部分では0.05ミリ。これを部分に応じて使い分けている。(因みに一般的なコピー用紙の厚みが0.09ミリだというから、その薄さに驚きだ。)これにより仕上がりの美しさ、薄さは言わずもがな、革全面を貼り合わせることによって、革の両面からテンションが掛かり、しなやかなハリと強度が生み出されるのだ。また芯材を入れない仕立てだからこそ、愛用するほどに革が綺麗になじむのも魅力。ちなみに革はその性質上、浮きやシワが出るため、ベタ貼りは高度な職人技を要求される技術である。

 

二つ折りの小銭入れ部分には厳選した芯材を使用

 

ただし、芯材を使っている部分もある。それは、高い強度を要求される部分(※③)。テンションの掛かる部分なので、革だけだとどうしても形状が変化してしまう。YUHAKUでは革の質感を損ねないよう様々な芯材を試した結果、紙と化繊をミックスした厚みの違う2種類の芯材に辿り着いた。選び抜いた芯材を入れることで型崩れしにくく、かつスムーズな開閉を実現している。

 

こうした作り込みの数々は、ひとつの財布をとってみても枚挙にいとまがない。それこそが「ここまでやっている日本のブランドは他にない」と言わしめるYUHAKUの真骨頂。長く使い込むほどに、そのことを納得させられるはずだ。

 

※②床面:動物皮の毛と表皮層を取り除いて鞣した真皮層の裏面のこと。また表面は銀面という。出展元:『ファッション辞典』(文化出版局)
※③ベラトゥーラシリーズでは、二つ折り財布の小銭入れのかぶせ部分、コインケースのかぶせ部分、キーケースの3辺にそれぞれ芯材を入れ、強度を高めている。

 

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2018.02.01

About creative note

 

creative noteは、YUHAKUのモノづくりを語るnoteです。
世界でも唯一と言われる独創的な染色手法や細部まで行き届いたこだわりなど、一切の妥協を許さないYUHAKUの姿勢を、代表仲垣へのインタビューも交え、余すところなくお伝えします。

 

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2017.10.06

スポットライトがつくる陰影を手染めで具現化

 

靴のデザインはあのステファノ ブランキーニ

 

小物やバッグと並びyuhakuの代表的な作品のひとつとなっているのが革靴だ。ご自身も革靴をこよなく愛する仲垣氏がつくり上げるyuhakuの革靴は手染めだけでなく製法や履き心地にも心を砕いたもの。当然ながら靴自体のフォルムにも強いこだわりをもっている。ルチェ エ オンブラ シリーズの革靴のデザインを手掛けたのは世界的なシューズデザイナー、ステファノ ブランキーニ。いわずもがな華やかなイタリアンデザインのドレスシューズで一世を風靡した人物だ。yuhakuの手染めを高く評価したこの巨匠から直接許諾を得ることで、ルチェ エ オンブラの革靴が誕生することとなった。「革靴に関しては、暗いところで靴に上からスポットライトが当たった感じをイメージしました。履き口からソール、つま先方向に向かって色が暗く落ちていくグラデーションを施しています」。一般的な靴のグラデーションとは一味違う、yuhakuらしい遊び心を楽しんでもらいたい一足だ。

 

 

実際に靴自体をつぶさに見ていくと、かなり凝ったデザインであることがわかる。有機的にカットしたパーツをいくつも使い表面にステッチが出ないように縫製するため、工程的にもかなり複雑で手がかかる仕様になっている。ここにyuhakuの手染めが加わり、よりパーツの切り換え部分の陰影が鮮明になる。ベースの靴の良さを手染めでより一層引き出した、コラボレートの成功例と言えるだろう。

 

 

シューレースの無いスリップオンタイプとしているため気軽に履けるのも嬉しいポイント。ドレッシーなスタイリングはもちろん、カジュアルスタイルに合わせても、着こなし全体を格上げしてくれるはずだ。タンを太めのゴムバンドで固定することで適度なホールド感を確保しているためフィット感もじつに心地よい。もうひとつ特徴的なのがインソールとアウトソールの間に髙反発素材を入れていること。革靴でありながら長時間歩いても疲れにくく作られているのだ。余談だが、yuhakuのオンラインショップで靴を購入する場合、フィッティングのために3サイズ(片足)まで送ってもらうことができる。通信販売であっても自分にフィットするサイズを選べるというわけだ。

 

 

 

ベルトはさりげない自己主張に欠かせないアイテムのひとつ。バッグや革靴とコーディネートすることで、着こなしに統一感が生まれるのだ。ルチェ エ オンブラ シリーズのベルトはバックルと先端部分にyuhakuの手染めグラデーションレザーを採用。直線を基調としたバックルを合わせることで大人っぽく仕上げた。「黒革と手染めレザーの接続部分にはかなり気を遣って仕上げました。着用感を良くするために、できるだけフラットになるように縫製しています。バックルも完全にオリジナル。角形の金属棒を曲げて立体的に造型したので、シンプルで男っぽい仕上がりになりました。他のyuhakuの金属パーツと同じく、ブラックニッケルメッキを施してからヘアラインを入れるという手間のかかる加工をして、独特の質感に仕上げています。」と仲垣氏。シンプルなデザインでありながら腰回りで主張する力強さがあるのだ。

 

 

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2017.09.22

手染めグラデーションを部分使いして光を表現

 

 

 

使いやすく、着こなしの中で映えるバッグ

 

ルチェ エ オンブラ シリーズはバッグのバリエーションも豊富だ。トートやバックパックに加えクラッチバッグまで揃えられていて、好みに応じたセレクトができるようになっている。どのバッグにも共通しているのはフラップ部分に手染めのグラデーションレザーを採用していること。「バッグに関しては上空から射し込む光をイメージしてデザインしています」と仲垣氏。黒革のボディと合わせることで、手染めのグラデーションレザーが本来持っている発色の良さや艶感がより一層際立って見えてくる。

 

 

 

フラップ部分はルチェ エ オンブラのバッグの最大の個性とも言えるパーツ。「内装材と縫い合わせる段階で自然に弧を描くように計算して縫製しています。少しでもストレス無く使っていただけるようにフラップを留める部分にはスナップボタンではなくマグネットを採用しました」と仲垣氏。毎日使うバッグだけにストレスなく開閉できるのは確かに喜ばしいことに違いない。

 

 

 

これはルチェ エ オンブラシリーズに限ったことでは無いが、yuhakuのバッグはデザインだけでなく使いやすさにもかなりの比重を置いている。「ブリーフケースはもちろん、トートであっても基本的に自立できるように設計しています。デザインによってはなかなか難しいこともあるのですが、革の使い方や内装材の選定、型紙の作り方などを工夫することでその点をクリアしてデザインしているんです」。仲垣氏のこだわりはそれだけでは終わらない。「ポケットの使い勝手にはこだわっていますね。絶対に欠かせないのはクッション付きのPCスリーブ。これはもはや欧米では当たり前になっています。ラップトップはもちろんタブレットを使う方にも喜んでいただいています」。

 

 

 

 

ここ数年メンズのファッショシーンで注目を集めているレザーのバックパックも好評だ。ルチェ エ オンブラのアイコニックな意匠であるフラップ部分のグラデーションレザーや細めのハンドルを用いたデザインは、yuhakuらしいミニマルでクリーンなもの。トートとしても使える2WAYタイプでありながら大人がもつに相応しい落ち着きを備えている。ボディサイドにジップがあるので、フラップを開けなくてもメインコンパートメントにアクセスできる。仲垣氏は「ショルダーストラップにもこだわりました。このタイプの2WAYバッグは、ハンドルを持ってトートとして使った時にショルダーストラップが地面に擦ってしまうことがあるんです。それがとても嫌だったので、通常のストラップと調整方法を変えて使いやすく改良しました」。こういった細かな配慮も支持を集める要因となっているのだろう。

 

 

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2017.09.08

シリーズ全体で表現される“影に挿す一筋の光”

 

職人泣かせの技法を散りばめたルチェ エ オンブラ

 

ルチェ エ オンブラはyuhakuの数あるラインナップの中でも常に高い人気を集めるシリーズだ。イタリア語で光と影を意味するシリーズ名が示すとおり、手染めのグラデーションに黒を合わせることで“影に挿す光”を表現した意欲的なアイテムが揃う。財布やカードケースなどに加え、バッグやシューズ、ベルトなどまでリリースされているため、トータル的なコーディネートが楽しめるのも大きな特徴と言えるだろう。今回から数回に分けてデザイナー仲垣氏のインタビューを交えながらルチェ エ オンブラ シリーズの魅力に迫っていきたい。今回のシリーズもyuhaku独自の手染めに加え、使いやすさに対するアプローチやパーツの設計・縫製など、yuhakuの持つ強い拘りが垣間見られるはずだ。

 

財布や革小物では建物がつくる強い影をイメージ

 

 

まずはシリーズ中でも随一の人気を誇る長財布から見ていこう。デザイナーの仲垣氏曰く「財布やカードケースなどを作る時にイメージしたのは建物に強い光が当たってできた深い影。墨染め部分の幅や位置関係、グラデーションの入り方とのバランスなどに気を配り、このルックスへと辿り着きました」とのこと。グラデーションの発色の良さと黒の深さ。1枚の革の上にこのコントラストが生み出すミステリアスな雰囲気こそルチェ エ オンブラの真骨頂だ。影となる部分の墨染めも当然すべて手作業。手染めで繊細なグラデーションをつくり上げた後、マスキングをしながら墨染めで影の部分を染め上げ、さらに磨きの工程を経て完成させていく。yuhakuならではの丁寧な仕事がこの財布にも生きている。

 

 

 

 

 

次はルチェ エ オンブラの手染め工程を追ってみよう。まずグラデーションに手染めされた素材にけがき線を入れ、墨染めする位置を決める。その後、けがき線に沿ってマスキングテープを貼る。「じつはマスキングテープにもうちならではの工夫がほどこされているんです。マスキングテープの粘着力で手染めした色が剥がれないように、テープを1mmだけ残して紙を貼るようにしています。この幅を決めるのにも試行錯誤があったんですよ」と仲垣氏。マスキングテープを貼り、手染めで墨黒を入れていく。ベースとなる革の染まり方などを見ながら数回に分けて染めるため、この工程も繊細な作業となる。染め上がったらマスキングテープを剥がし、ワックスをつけてバフを当てていく。手をかけるほどに光沢を増していきガラス面のような輝きが生まれる。

 

 

ルチェ エ オンブラ シリーズには財布だけでも束入れと2つ折りタイプの札入れ、マネークリップ、そしてL字ファスナーの束入れの4種類が用意されている。その中で仲垣氏が愛用するのがL字ファスナーの束入れだ。「この長財布は左手に持った時の使いやすさを考え抜いて設計しました。ファスナーを開ければお札はもちろん、カードや小銭まですべてスムーズに取り出せるようになっています。自分はお金を払う時にわざわざ財布の向きを変えたり、持ち替えたりするのが嫌なんですよ。とにかく会計をスマートに終わらせたいという一心で作ったので、こういう財布ができました」。取り出しやすいカードスリットや収納力の高い札入れ部分など注目点は数々あるが、筆者が特に感心したのは小銭入れの設計。手前側にのみマチが付いているため、財布を立てて小銭入れのファスナーを開くと自然に手前側(自分側)に小銭が集まるようになっているのだ。是非一度手にとって、その使いやすさを体験していただきたい商品だ。

 

 

 

カードスリットには6枚+隠しスリットに2枚収納可能。「カードスリットは敢えて深めにして、カードのデザインが見えすぎないようにしました。お店でもらう会員カードやポイントカードなどは、どうしてもデザインに統一性がないので、浅いスリットだと財布を開いたときに雑然としたイメージになってしまうんです」と仲垣氏。メインの札入れの他にも隠しポケットやエクストラスリットがあるため領収書なども綺麗に整理できるのも嬉しい。

 

 

 

ディテールも見るべきところが多い。これはyuhakuのプロダクト全般に言えることだが、付属のファスナーなどのクオリティにもこだわりを発揮している。L字ファスナー束入れに使われたのはYKKの最上級ファスナー、エクセラ。トップは直線的なデザインが与えられたオリジナルだ。ブラックニッケルメッキを施してからさらにヘアライン仕上げ(単一方向に髪の毛ほどの細かい傷をつける加工)にすることで、独特の上質さを生み出している。さらにもうひとつ言うと、手染めのグラデーションと墨染め部分の境界線に押された刻印も職人泣かせの代物だ。どうしても個体差が出てしまう天然皮革だけに、ライン上にキッチリとブランドロゴを押すことは案外難しい。ともするとロスが出てしまう可能性もあるが、それでもこのデザインを優先させているあたりにyuhakuらしい妥協の無さが見えてくる。

 

 

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